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コラム6 御簾の内(下巻)

【御簾がめくれ中将と姉姫は目を合わせる】
 かつて高貴な女性は、他人に顔を見せてはならなかった。おそらく現在、裸を見せないのと同じくらいに。それゆえ男はまだ見ぬ恋に身を焦がし、垣間見に情熱を注いだのである。

 そのような女性が外を見るときには、御簾が掛けられる。暗いすだれの内側から明るい外の物は見えるが、外から暗いすだれの内は見えない、いわば昔のマジックミラーである。

 しかし御簾はゆらぐ。『源氏物語』「若菜 上」のように、飼猫の綱が引っかかっただけでも隙間から中が見えてしまう。ここでは風が吹いてめくれ(挿絵の風はずいぶん大げさだが)、中将は姉姫を見、目と目を合わせてしまうのである。