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コラム7 吹抜屋台(下巻)

【密室の恋人達と隣室を吹抜屋台で描く】
 王朝の恋物語の挿絵で困るのは、深窓の姫君を描くときである。他人に顔が見えないように屏風や几帳を立て廻し、御簾などを掛けた内にいるので、外からは絵に描きようがない。そこで用いられるのが吹抜屋台という技法、外から覗くのに邪魔な屋根を外し、手前の壁を省略して、斜め上から覗き込むように、室内の出来事を描くのである。

 ここでは夜更けに忍び込んだ中将と姉姫の語らいと、隣の部屋で寝たふりをする妹姫達の挿絵を出した。姉妹の部屋に一つずつ燭台が置かれ、よく見るとそれぞれ赤い灯火が描かれている。この小さな炎が、姫君達の閉ざされた空間が夜であることを物語る。絵を見る我々の方が、覗き見をしたような気分になってしまう絵である。