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コラム1 平家物語絵本巻一の出現と収蔵(第一巻)

【巻一・表紙】
【巻二・表紙】
 「絵本・絵巻の世界」というサイトを設けた出発点は、本学所蔵の平家物語絵本の存在であった。これを世に紹介したいという思いもあって始まったプロジェクトであったが、この絵本は本学が入手した当初から10冊であり、冒頭の巻一と末尾の巻十二を欠くのが難点であった(コラム2「欠落巻の謎」参照)。それが、本学所蔵10冊のツレ(僚巻)と目される「奈良絵本 平家物語巻第一」1冊が現れ、10冊と一緒に収蔵できることとなったのは望外の喜びと言うほかないだろう。

 本プロジェクトが「奈良絵本 平家物語巻第一」の存在を知ったのは昨年(2014年)5月中旬のこと、京都にある古書店のカタログであった。カラーページに掲載されたそれは、巻第一の目録末尾から本文冒頭にかけての写真1枚に、どこかで見慣れた覚えのある極彩色の絵が2枚添えられていた。挿絵の1枚は栄華を極める平家の邸宅の様子が描かれ(我身栄華の事)、もう1枚は比叡山の大衆と平家の争いの場面(神輿振の事)、いずれもが本学所蔵のものと画風が類似していた。書誌に記される寸法もほぼ同じであるし、全17図という挿絵がすべて見開きである点も共通する。さらには、本文の筆跡や料紙下絵の紋様にも共通点を見て取れる。これは本学のもののツレに間違いないとの確信を深め、その古書店に連絡を入れた。

【巻一・目録〜祇園精舎】
(右頁の下絵が巻五・目録の右頁に類似する。)
【巻五・目録】

 いつも世話になるNさんに電話が代わり、恐る恐る切り出すと、すでに見計らいの先約があるという返事。念のため、問い合わせた理由(本学所蔵のツレの可能性あり)を話す。Nさん曰く、先約を入れた方も同じことを話されていたとの由。その場は、先約の方が見送った場合には是非連絡をもらいたい旨を伝えて電話を切り、すぐに本学図書館との下相談に移る。課長も同じカタログで目を留めていたとのこと。ここまでの経緯を話して、可能であれば図書館で購入できないかを打診し、まずは古書店からの連絡を待つこととなった。

 連絡を待つ間も、同僚やその知り合いの方などからの情報として、明星本のツレが古書目録に出ているという指摘が入る。この奈良絵本に関心を寄せてくださっている方がいることに感謝しつつ、数日が過ぎた。

 週明けに図書館へ宛てて古書店から連絡があった。先約を入れた方が、明星大学が購入するのであれば辞退してくださるという。後で聞いた話では、明星が動かなければ散逸防止のためにも買っておこうと考えてくださったらしい。いち早く押さえてくださったことも、それをあっさりと譲ってくださったことも、ただただ頭の下がる話である。

 思えば、本学所蔵の奈良絵巻『北野通夜物語』も、研究を始めてからツレが見つかった。偶然も重なると気が大きくなる。そうなると、未だその存在が確かめられない平家物語絵本巻十二がますます気にかかるところである。巻一の発見・公開が契機となって、巻十二が世に出てくるとも限らない、と想像するのは、それこそ「無いものねだり」であろうか。