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コラム11 小督の主人公(第六巻)

【探し出した小督の琴の音に笛を合わせる源仲国】
 小督の物語は、後に能や薩摩琵琶、箏や尺八の曲ともなって広く知られている。ところでこの哀切な物語の主人公は誰なのだろう。女主人公はもちろん小督であるが、この場面では名月に君を思い出して琴を弾くのみで、さほど大きな行動はしない。

 男の主人公も、当然その相手である高倉天皇である。『平家物語』の流れから見ても、高倉上皇崩御の要因として、このような心痛で病がちになったという回想場面として語られているのである。

 しかしこの物語で最も強く印象付けられるのは、源仲国が小督の琴を聞きつける場面であろう。月夜の嵯峨野を小督を探してさまよう場面、かすかな琴の音をたよりに近付いてゆき、その曲を「想夫恋」と聞き分け小督の心中を推し量る。かって宮中で自分が笛の役で伴奏をしたように、腰の横笛を引き出してわずかに合わせてから、ほとほとと門をたたく場面描写は美しい。

 挿絵の該当場面でも、屋内で琴を弾く小督と、門外の馬上で笛を合わせる仲国の両者が描かれ、この絵のみを見れば、まるで小督と仲国の音楽を通しての恋物語のようにすら見えよう。

 もっともこの物語の冒頭にあるように、小督はもともとは藤原隆房に見初められた女房であり、小督のお召しで隆房もその別れを死ぬほど嘆くのである。この高倉天皇との三角関係は、後に『隆房卿艶詞絵』という繊細な歌物語の絵巻に作られて今に残る。『日本絵巻大成』第十巻などに掲載されているので、同じ登場人物の別の描かれ方を見比べるのも面白い。