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コラム12 雅な平家物語絵(第七巻)
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【月夜の竹生島で琵琶を弾く平経正】
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【藤原俊成に自作の和歌集を差し出す平忠度】
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有体に言って、この明星大学本『平家物語』の挿絵絵師は武者絵が下手だ。たしかに平家の公達の大鎧を着た出陣の出で立ちは、本文の華やかな記述にふさわしく、鮮やかな彩色で描かれ、鎧兜や刀の所々に塗られた金泥のきらめきも美しい。しかし挿絵に合戦場面の臨場感を求めようとするのであれば、極めて物足りない。表情に凄みはなく、動作もおっとりと描かれて、まるで京人形のようである。
例えば倶利伽羅落としの場面である。「巌泉血を流し、屍骸岳をなせり」という凄惨な場面も、ただ騎馬の一団が転んだ程にしか見えない。このことは軍記としての明星大学本の致命的な欠点であり、林原美術館(*1)所蔵『平家物語絵巻』(越前松平家伝来の江戸初期の36巻本)や、他の平家物語絵本に劣るところであろう。 しかし『平家物語』には、小督など女性の物語が挿入されているように、王朝文学としての側面もある。そのような雅な場面をじっくりと味わうときには、戦闘の生々しさが排除されたこの本の挿絵が生きてくる。 殊にこの挿絵のよさが発揮されるのが、合戦の場に赴きつつあっても雅を捨てられない平家の公達の物語である。鎧に身をつつみながら月夜の竹生島で琵琶を弾く経正、甲冑姿のまま俊成に歌集を差し出す忠度らの場面は、美しい。きらびやかな武装と、その武人の雅な行動を違和感なく表し得るのは、武者をおっとりと描くこの絵師ならではのことであろう。 *1 岡山城主池田家の旧蔵品を中心とした 故林原一郎氏のコレクションによって生まれた美術館(所在地岡山県)で、 日本の多岐にわたる美術品を数多く所蔵している。 |
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