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コラム15 武具の美学(第九巻)

【法皇に拝謁する源義経の出で立ち】
【対峙する平敦盛と熊谷直実の出で立ち】
 平家物語に記される武者の合戦の装いは美しい。例えば、義経が後白河法皇の御所へ護衛に駆け付けた場面の出で立ちは、赤地錦の直垂に紫裾濃の鎧、鍬形を打った兜に黄金作りの太刀、二十四の切斑の矢を負い滋藤の弓に大将軍の印を巻きと、細かに色鮮やかに記述され、耳から聞くだけでも目に浮かぶようである。挿絵の絵師も、直垂の模様を細やかに描いたり、鎧の紫は絵具を混ぜてそれらしい色を出したりと、苦心して再現している。

 また比べてほしいのは「敦盛最期の事」の平敦盛と熊谷直実である。物語によれば直実は褐(紺)の直垂で、赤革縅の鎧に紅の母衣は合戦の一番乗りを狙うにふさわしい目立つための装束、敦盛の出で立ちは、練貫に鶴を縫った直垂に萌葱匂の鎧で、黄金作りの太刀や金覆輪の鞍とともに、いかにも平家の公達らしい豪華で凝った装いである。

 この段は、能にも取り上げられ、『平家物語』の中でも最も知られた場面の一つである。挿絵は、海に逃れた敦盛を直実が招き返す場面を描く。しばしば屏風にも取り上げられるお馴染みの場面ではあるが、若武者の敦盛と荒武者の直実、萌葱(緑)の鎧と赤革縅の鎧に赤い母衣、海と陸、それぞれの対比の美しさも見所の一つである。