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コラム19  写真には写らないもの(第十一巻)

【胡粉、雲母、銀と多様な白が使われた建礼門院の産室】
【艶のある黒で材質感を出した鎧兜 金泥で描かれた鎧の模様 金砂子にきらめく霞】
 明星大学図書館蔵『平家物語』絵本は、保存管理の問題から、公開はweb上での写真図版に限定している。筆者も現物を実際に見ることができたのは、この写真撮影の前後三回のみである。そこで、web上の写真では充分に伝えきれない部分について補記したい。

 一つは金色の輝きである。明星本の絵具としては、非常に質の高い金泥と金箔が使われている。保存も良いので金はほとんど剥げず、錆びもしない。そこで、本の頁を開いたとき、本文でも挿絵でも、金が明るく微笑むような輝きを放つ。ただし写真撮影となるとこの反射が邪魔になるので、光を極力抑えて撮影される。画面では沈んで褐色となっている部分が、実は金の箇所である。本文の折り目辺りに紙の角度の加減でわずかに反射して光っているところが見えるが、全体があのように輝いていたのだと想像力で補ってほしい。

 もう一つは、挿絵の絵具の光沢である。背後の白地のふすまや、建礼門院の出産の箇所の白地の着物の模様のうちには、うっすらと雲母を引き、真珠のような光沢を出したものがある。よほど見る角度を変えなければ気がつかないところに、手の込んだことをしているのだ。黒地でも、墨の黒の上に部分的に、にかわの強い光沢のある墨を重ねて、黒い束帯に立涌の織り出し模様を表現し、また鎧兜に光沢のある墨を用いて黒金具の輝きを表現している。もっとも刀身は、青味がかった灰色に青を塗り重ねたのみで光っていないが。

 いま一つ言っておきたいのは、保存の良さである。ほとんど読んだ形跡がなく、頁を開くごとに紙がきしるのが伝わる。光にさらされなかったので、絵具もいま塗ったかのように鮮やかな原色のままである。幸い、このまっさらな感じは、図版写真にもそのまま再現されている。仮に今後、明星大学本が年月を経て古びたとしても、web上の図版写真が古びることはない。初めての本を開くような新しさを、図版を見るたびに味わってほしい。