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コラム2 欠落巻の謎(第一巻)

【若き頃の清盛】
 十二巻十二冊で一揃いのはずの『平家物語』が、明星大学図書館所蔵本は当初、十冊しかなかった。一巻の内容が一冊ずつになったものが第二巻から第十一巻までで、第一巻と第十二巻が欠落していた。誰かが第一巻を持ち出して読み始めたまま元に戻さなかったにしては、第十二巻もないことの説明がつかない。奇妙な欠け方であった。

 明星本『平家物語』は、手間とお金のかかった極めて上質なものである。恐らくは、大名クラスの分限者が娘の嫁入道具として誂えた、いわゆる「嫁入本」であろう。二冊足りないことを除けば、明星本の保存は極めてよい。各冊には、手擦れのような読まれた形跡はほとんどなく、絵具も金泥も塗られた時のままのまっさらのようである。箱も、漆で平家物語と表題が書かれた十二冊分の大きさの黒漆塗りの箱が付属していた。

 その十冊と箱のみが古美術商の手を通って、明星大学に納入されていたのである。傷んで散逸したわけでは、なさそうだ。或いは第一冊と第十二冊には、すぐに他人の手に渡せないほど格別の思い入れでもあったのだろうか。

 当初、このコラムは「もしも欠落した二冊がこの世に存在するのならば、いつの日か、この明星本とめぐり合い、並んで展示される日の来ることを祈ってやまない。」と結ばれていた。けれども2014年に第一冊が市場に現れて明星大学の所有となり、冒頭から第十一巻までが揃うこととなった。(コラム1「平家物語絵本巻一の出現と収蔵」参照)

 夢の片方が実現したのである。見ることは出来ないかと思われていた第一巻冒頭の著名な祇園精舎のくだりや、若き頃の清盛の姿を、新たに追加された写真図版で、じっくりと見てほしい。