column index 
コラム5 すやり霞(第二巻)

【挿絵の上下にたなびいて描かれる、金色の霞】
 明星大学本『平家物語』の挿絵の上下に引かれた不定形の金色のものは、何に見えるだろうか。これを「すやり霞」と呼ぶと聞けば、これがどうして霞なのかと思われるかもしれない。そこでまず言っておきたい。これは額縁のようなものだと。

 たしかにすやり霞の起源は、山々の麓に白くたなびくような霞の描写であって、遠景や、さりげないぼかしに使われていたものである。しかし絵巻の物語の都合上、一続きの画面に異なる時間や所の場面をいくつも描き繋げなければならなくなると、この霞は場面と場面を区切るための便利な手段として、多用されるようになる。

 霞が絵巻を区切る表現として使われるようになると、形も実際の霞とは異なって、槍のように細長く、棒のように硬そうなものまで出てくる。色も霞の白や水色から青色、そしてこの挿絵のような金色のものも現れる。この絵本での霞の意味は、現在と、過去の物語とを区切るもの、いってみれば『平家物語』を額縁に入れて、外側から鑑賞しようという枠組なのである。

 すやり霞の非現実的な金色は、雅な時代の平家の栄華を縁取るのに、いかにもふさわしい。ちなみに霞の金色の細かい点のようなきらめきは、細かく切った金箔を散りばめる砂子という技法から生まれている。地面の部分に引かれた金泥の穏やかな輝きとの、同じ金でも異なる光り方を楽しんでほしい。