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コラム7 料紙装飾(第三巻)

【書かれた文字よりも地の文様に注目を】
 鑑賞の対象となる絵画は、挿絵だけではない。本文の書かれている料紙もよく見ると、細やかな下絵が全面に散らし描きされている。横方向に黄土色にぼかされた筋は金泥による霞の表現であり、霞に見え隠れするように、様々な草木や流水や波などが、同じく金泥のみの濃淡で細やかに描かれる。これらの下絵は本文より先にあらかじめ描かれるので、流水に桜や紅葉、蔦や秋草など、本文とは無関係に優美な題材が選ばれている。

 このように、絵巻や絵本の本文の地紙に様々な絵や文様を金泥で描き金箔を蒔く料紙装飾は、日本では平安時代の後半から盛んになった。特に平家一門が厳島神社に奉納した平家納経は、法華経が書かれた本文のみならず、見返し紙から題箋や軸、巻き紐に至るまで、競って贅を尽くしたことで知られている。

 平家納経には遠く及ばないけれども、金泥を惜しげもなく使った明星本の料紙装飾も、頁を開くごとに照り輝いて、ひときわ繊細で華やかである。平安王朝の栄華を留める平家物語の本文と雅な挿絵にふさわしい、華麗な伴奏となっているのである。