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コラム8 浄妙坊(第四巻)

【宇治橋の橋げたで一来法師が浄妙坊を躍り越える】
 宇治橋をはさんで源平が対峙する宇治橋の戦いは、合戦物としての『平家物語』前半の山場である。ことに橋板を外された宇治橋の橋げたをどのように渡るか、両軍の見守る中で繰り広げられる矢切り但馬、浄妙坊と一来法師といった荒法師たちの活躍は、絵巻や絵本の中でも視覚的な見せ場となる。

 林原美術館(*1)所蔵『平家物語絵巻』(越前松平家伝来の江戸初期の36巻本)では、それぞれの活躍にあてて一図ずつの絵が描かれているが、明星本では、一来法師が浄妙坊の上を躍り越える一場面しかない。この場面は本文では「かぶとのしころに手をおいて」「肩をづんとおどりこえ」と書かれているものが、両本ともさらに激しく、橋げた上の浄妙坊の頭上で一来法師が片手で逆立ちするという、まるで華麗な曲芸のように描かれている。

 この場面は当時から、絵巻・絵本以外でも人気が高かったと思われ、八幡山保存会蔵の江戸時代の祇園祭礼図屏風の山鉾の中に、この場面と思しき山車が見いだされる。京都の祇園祭の山鉾には、現在もこの場面を象った「浄妙山」がある。いずれも挿絵と同じく「頭上での逆立ち」である。これは山車が挿絵を真似たのか、あるいは挿絵がその当時の山車を真似たのか、考えてみると面白い。


*1 岡山城主池田家の旧蔵品を中心とした 故林原一郎氏のコレクションによって生まれた美術館(所在地岡山県)で、 日本の多岐にわたる美術品を数多く所蔵している。