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コラム3 描かれた女性 ― よしわら(巻二)

 『一目玉鉾』は上段に文章、下段に道中地図という構成をもつが、両者をつきあわせてみると,必ずしも対応していない事に気づく。そのうちの一つが巻二、「よしわら」である。上段には説明が全くないが、下段には挿絵がある。見ると女性が描かれているようだ。『一目玉鉾』の中には人物が多く描かれているが、そのほとんどが男性である。このように女性が描かれている箇所は珍しい。

 吉原は、江戸から東海道を歩いて原と蒲原との間に位置する宿駅である。富士山の眺望がよく知られている。挿絵で暖簾を垂らした家は旅籠だろう。となれば、前に立って旅人と語るがごとき女性は客引きの留め女を描いたものと考えて間違いない。留め女は飯盛女、出女とも言い、遊女のような役割も果たした。

 旅人が宿場で遊女に癒されるのは当時の旅の常。よって、このような場面はどの宿場でも見られたはずである。たとえば同じ東海道を描く浅井了意『東海道名所記』(万治年間〈1658〜60〉刊)では、品川、水口、大津などでこうした挿絵が描かれている。

 『一目玉鉾』で、ことさら吉原宿にこの図柄が描かれているのは、まさか「よしわら」という名前の縁で遊女を描いたダジャレという訳ではないだろう。ただ、宿場を絵で表すには、これ以上ない有効な図柄だという事は言える。先にも述べた通り「よしわら」には文章の説明が無いけれども、ここが宿場だという事は留め女の絵だけですぐに分かるのである。