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コラム4 欠かせない名所和歌 ― 佐夜の中山(巻三)

 佐夜の中山(小夜の中山、佐世の中山とも)は、東海道を江戸から行って金谷と日坂(にっさか)との間にある峠で、難所かつ名所の一つである。この地を詠んだ西行の和歌、

年たけてまた越ゆべきと思ひきや命なりけり佐夜の中山

は、東海道の名所を詠んだ和歌の中でも、最も著名なものの一つであろう。

 しかし『一目玉鉾』は、巻三に「佐夜中山」の項を設けているにもかかわらず、この和歌を掲載しない。その全文を引用してみる。

○佐夜中山

待明すさよの中山中/\に一声つらき時鳥かな
旅衣夕霜さむき篠のはのさやの中山嵐吹也
鳥のねを麓の里に聞捨て夜深く越る佐夜の中山
古代には此峰に関の戸ありし

 佐夜の中山に関する和歌を三つも掲載しておきながら、「命なりけり」の和歌を掲載しないというのは不思議である。『定本西鶴全集』の注釈によれば、『一目玉鉾』が引用した三つの和歌は、すべて『新後撰和歌集』から採ったものであるという。

 俳諧師であった西鶴であれば諳んじていてもおかしくない「命なりけり」の和歌を用いず、『新後撰和歌集』から三つも和歌を採用するとは、どのような意識なのだろうか。

 『一目玉鉾』には地名にちなんだ和歌が数多く引用されている。しかし著名な和歌が掲載されず、あまり知られていない和歌が見えることが、ままある。また出典の明らかでない和歌もまだ多く残されており、解明が待たれている。