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コラム4 御所の五郎丸 ‐ 女装の荒武者

【曾我五郎に組み付く女装の荒武者「御所の五郎丸」】
 兄曾我十郎が討ち死にした後、頼朝の寝所に迫ろうとする曾我五郎に後ろから抱きついているのは、なんとも奇妙な格好の武者である。名を「御所の五郎丸」という。
 詞書に「十八歳になりけるが、八十五人が力なり」とある。大変な力持ちで、当然体格もよかったのだろう。その荒武者が、襲撃の報を受けて腹巻(胴だけの鎧)の上に女物の薄衣を被り、髪もゆり下げて待ち伏せをしていた。この画面は、曾我五郎をやり過ごして、後ろからむんずと組み付いた瞬間である。組み付かれている曾我五郎よりも大きい体と無骨な顔立ち、にもかかわらず、髪はゆり下げるというより、稚児(五条の橋で弁慶と出会った時の牛若丸の姿をご想像いただきたい)のように結い上げ、白い薄衣をたなびかせている。曾我五郎は、暗がりでこれを女と見て油断してしまった。
 吾妻鏡に「小舎人童五郎丸」と述べられているこの人物、実在の可能性が高い。「曽我物語」には、御所の五郎丸は京都の出身。比叡山にいたが、十六才のとき師匠の敵を打って京にいられなくなり、東国に下った。すぐれた荒馬乗りで、七十五人の力持ちだったとある。
 女装した荒武者という特異なキャラクター設定と、曾我五郎捕縛のきっかけを作った人物であることから、御所の五郎丸は曽我兄弟の仇討ちにかかせない脇役として、能や歌舞伎の「曽我もの」には、必ずといっていいほど登場する。浮世絵でも、曾我五郎に組み付く御所の五郎丸は画題の一つである。