column index 
コラム2 邸前の光景

【馬や従者、民衆がいきいきと描かれる邸前の光景】
 明星大学所蔵「北野通夜物語絵巻」巻三の導入部は、あわただしい邸前の光景である。土塀によって邸内と隔てられた場では、馬廻りの下人が、落ち着かない馬をなだめている。白に斑模様の入っている馬を「連銭葦毛」(れんせんあしげ)と呼ぶ。振り上げた尾が躍動感を見せる。茶色の馬は「鹿毛」(かげ)または「栗毛」(くりげ)と呼ぶ。馬のまわりには白い狩衣(かりぎぬ)を着た従者たちが座す。訪問者の馬や従者は、このように門前で待つのが通例だったようで、多くの絵巻物で、門前を表す常套表現として描かれている。現代に置き換えれば、映画でよく描かれるホテルやパーティー会場前の車寄せ風景、高級車の周辺で制服の運転手が主人を待つシーン、とでも言えようか。
 この場面には、さらに邸内を伺う何人かの人物が描かれている。狩衣姿の供の者に話しかける男、邸内を指差しながら仲間と何やら声高に話す男など、表情も身振りもいきいきとしていて、邸内で行なわれている評定の、ただならぬ雰囲気を伝えている。このような様子は詞書には書かれていない。絵師の技量のみせどころである。