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コラム5 料紙装飾・料紙下絵

【金泥と淡彩で伸びやかな蔓草が描かれた「北野通夜物語」の料紙】
 絵巻や絵本の詞書(ことばがき:本文のこと)の下には淡彩で絵が描かれている。料紙(りょうし:文字を書く紙)に装飾を施すことを料紙装飾(りょうしそうしょく)と呼ぶ。料紙装飾は紙と共に中国から輸入された文化で、日本では平安時代後期に盛んになった。料紙装飾には、筆で絵を描く、金箔を散らす、版で絵や紋様を摺るなどさまざまな技法が用いられるが、料紙に絵が描かれたものは「料紙下絵」(りょうししたえ)とも呼ぶ。一般的に料紙下絵の題材は、上に書かれる詞とは関連性のない、草花、流水、花鳥などが多い。明星大学所蔵の絵本・絵巻にも料紙装飾、料紙下絵が施されているが、それらは作品によって個性豊かである。
 ここでは「北野通夜物語」絵巻の料紙下絵を詳しく見てみよう。詞書の各段には、藤、葛、野葡萄、鉄線花、瓜、朝顔などの蔓(つる)性の植物が、画面全体に大きく描かれている。画面では黄土色に見える線は金泥で、花や実にはところどころに藍や薄紅色の淡彩が施されている。藤の花房、野葡萄の房、鉄線花や朝顔の花の量感と、伸びやかに配された蔓の曲線が調和する構図は、単なる装飾を超えて、淡彩画としても鑑賞に値するものである。
 また、「北野通夜物語」絵巻と同時にweb公開されている明星大学所蔵の奈良絵本・絵巻のうち、「平家物語」絵本の料紙には金泥で草木、流水、波などが繊細に描かれ、「十番切」絵巻には、やや癖のある筆致で草木、山水、武蔵野図、鳥づくしなどが描かれ、それぞれに個性的である。絵本や絵巻を鑑賞する機会には、絵だけでなく詞書の料紙装飾にも注目すると、さらに楽しみが増すだろう。