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コラム6 絹本

【美しく装飾された楊貴妃の馬車】
 明星大学所蔵「北野通夜物語」絵巻は、平織りの絹地に描かれている。このように絹地に描かれたものを「絹本」(けんぽん)と呼ぶ。紙に描かれたものは「紙本」(しほん)と呼ぶ。いずれも東洋絵画の画材として広く用いられる。
 絵を描く絹を「絵絹」(えぎぬ)という。絹は「セリシン」という膠質(にかわしつ)によって覆われているため、そのままでは水分をはじいてしまう。そこで、熱湯をくぐらせたり、叩くことでセリシンを弱くする。その過程で絹地は白さを増し、柔らかくなる。一方、セリシンの溶解によって滲みやすくなった絹地には膠の溶液に明礬を加えた「礬砂」(どうさ)を塗って、滲みをとめるとともに絵の具のつきをよくする。絵を描くには、絵絹を木枠に張り、下絵を透かして描くのが一般的な方法である。
 紙は絹と並んでもっとも広く使われる東洋の画材である。さまざまな植物を用いた紙があり、それぞれに表現の効果が異なる。滲みをおさえ、筆の滑りをよくするために礬砂を塗ることが多い。
 絹本と紙本では、技法や表現方法に違いがあり、絹本は、より細密で繊細な描写や、ぼかしの技法に向いているとされる。また、絹本では、裏面にも彩色や箔を施して、画面に深みを持たせる方法がある。これを裏彩色(うらざいしき)という。もとより細密さや繊細さなどの表現は、作品の内容や絵師の技量によるが、明星大学所蔵「北野通夜物語」絵巻の細緻な描写は、絹本の技術に長けた絵師ならではのものといえるだろう。