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コラム7 異国を表現する

【異国情緒豊かに描かれた玄宗皇帝と楊貴妃の宮殿】
 「北野通夜物語」巻四では中世の日本から舞台を一変、古代中国の周と唐のエピソードが描かれる。人物の容貌、服装はもとより、植物や岩、建築などが日本とは明確に異なって描かれている。
 建築は場を設定する最も重要な要素である。赤、青、緑に塗り分けられた屋根瓦と、床に二種類の「せん」(土偏に專:タイルのこと)を市松模様に敷き詰める表現は多くの作品に共通し、中国の当時の風俗を忠実に再現するというより、常套的に「異国・異郷」を表現する手法だったと考えられる。
 ここは玄宗皇帝と楊貴妃の住まう宮殿。破り捨てた史書が足元に散らばり、詞書では史官の処刑が記述される陰惨な場面だが、傾国の美女楊貴妃の居場所だけに華やかで優雅。壁、柱、帳(カーテン)にも隙間なく細緻な装飾が施されている。帳の地模様の入った淡いクリーム色とピンクのぼかし、壁の上方に描かれた牡丹唐草、下方に描かれた中間色を駆使した雲などが美しい。