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コラム2 『源氏物語』つながり(上巻)
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【『源氏物語』「橋姫」の再現のような宮と御息所の出会い】
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宮が惚れこんでしまった女の絵は、『源氏物語』「橋姫」の帖で薫大将が宇治の姫君を垣間見て恋心を抱く場面である。どのような絵であったのか、幾度も絵巻を繰り延べては女を慕う宮の肩越しに覗いてみたくなる。この場面は有名な徳川美術館蔵の「源氏物語絵巻」にもあり、琵琶の撥をふざけて扇のように持ち、月を振り仰ぐ姫君は、以後の悲劇を予感させない素直な明るい表情である。糺の宮詣での帰りに一条で宮が見た、生身の女主人公が荒れた家の端近くで月明かりの中で琵琶を弾く状況も、「橋姫」のこの場面と重なる。
「絵合」といい「橋姫」といい、この物語で宮の恋のきっかけがすべて『源氏物語』に拠っていることは、宮の平安王朝への憧れを暗示するようだ。土佐へ流罪となる宮の運命は光源氏の「須磨」「明石」を連想させ、武文が宮からの迎えの文を持って嵯峨野の奥の荒屋に隠れ住む女主人公を訪れるところも、「蓬生」を思わせる。もっとも武文が嵯峨野で楽器の音をたよりに探し当てるところは『平家物語』の小督の一場面のようである。ここは明星本『平家物語』の巻六かコラム9と、見比べてほしい。 女主人公が松浦五郎の船に攫われて口説かれるところは「浮舟」、松浦五郎と匂宮では格が違いすぎるのだが、「夢浮橋」などという形容もあるので意識はしているのであろう。淡路島に漂着して海人らの介抱で蘇生して泣くところは「手習」の浮舟を、女主人公の衣を亡骸の代わりとして葬る場面は「蜻蛉」の帖を彷彿とさせる。光源氏と同じく天皇になれなかった宮、尊良親王の恋物語の通奏低音として『源氏物語』が響いているのである。 |
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