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コラム6 本当の結末(下巻)

【二人の再会で終わっているが・・・】
 『新曲』の結末は「今日を千歳の始めとして、めでたき例に、あかし暮らさせたまひけり」とハッピーエンドになっている。しかし物語のもととなった『太平記』巻十八「春宮還御事付一宮御息所事」の結末は哀しい。再会の後、中一年して世は再び乱れ、宮は越前金ヶ崎で自害し、首は都に送られた。これを嘆いた御息所も、宮の四十九日が過ぎぬうちに亡くなったという。『新曲』は独立しためでたい物語となったため、その後の悲劇は書かずに終わり方を変えることになったのであろう。結びの部分の美辞麗句が取って付けたような印象を与えるのは、それゆえである。

 もっとも『増鏡』によると、御息所の流離譚すら史実ではなく、御息所は男子を産んで間もなく亡くなったという。したがって『新曲』は、歴史上の人物に名を借りた、恋と忠義の物語と割り切って見るべきかもしれない。

 ちなみに明治時代、宮こと尊良親王を祭神とした金崎宮が、自害の地である金ヶ崎に建てられ、現在に至っている。その神宮の御利益の第一に「縁結び・恋愛成就」が挙げられているのも、この恋物語によるものであろう。