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コラム2 『なぐさみ草』挿絵マイナス1

【『なぐさみ草』より一人減らして構図を整理した『徒然草』挿絵】
 『徒然草』の挿絵の人物の登場する場面は、いずれも手慣れた感じに構図が決まっている。どうしてこのように巧みに人物を配置できたかというと、実はお手本がある。17世紀中頃に出版された『徒然草』の注釈書『なぐさみ草』(版本)の挿絵である。一段の話のうちどの場面を選び、どのような構図で絵にするかを見ると、明星大学本『徒然草』では全13図中12図までが、『なぐさみ草』の挿絵と一致するのである。

 なんだ物真似かと、そこで放り出さないでほしい。『徒然草』243段に対し実に158図の絵を付けた版本『なぐさみ草』は、当時、挿絵の決定版のようにされていて、それ以後の多くの『徒然草』挿絵に流用されてきたのである。真似は明星本だけのことではない。

 さらに弁護すれば、明星本では『なぐさみ草』の図様は借りてもそのまま使わず、煩雑な原図の人物配置を、およそ一図につき一人ずつ減らし、時には明恵上人の段のように人物の向きを変えて、構図を整理し、すっきりと洗練されたものに直している。できれば両者の図を並べて比較して、明星本の絵師の工夫を見てほしい。(「明星大学所蔵の絵本・絵巻と本プロジェクトについて」の下段から入る報告書には、双方を比較した図版があるので、興味のある方はご覧ください。)