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コラム3 顔・顔・顔

【貴族の顔・武士の顔・僧侶(明恵上人)の顔】
 挿絵の人物を見ていると、身分によって顔立ちが描き分けられていることに気付く。特徴的なのは貴族の顔で、控え目な眉に細い眼、つるっとした下ぶくれの顔の輪郭、やや細長くなったとはいえ、引目鈎鼻という平安時代の貴人の顔の描き方の伝統に基づいている。

 それに比べやや現実的なのが武士や医師、舎人たちで、眉は年齢によって三角だったり長かったりと変化に富み、髭もちょび髭から山羊髭まで様々である。輪郭も貴族に比べて実際に近いでこぼこに描かれる。

 遠慮がないのが僧侶の顔で、例えばここに挙げたのは高山寺の明恵上人であるが、美男子であった本人の肖像画とも異なって、ジャガイモのようなでこぼこに描かれる。柔らかな曲線をつなげて顔から後頭部までの輪郭が形作られ、長く伸びた眉毛や垂れ気味の目、顔のしわも書き入れられる。

 身分で顔が違って描かれるなんて酷い、と思われるかもしれないが、このような表現は宮廷絵師であった土佐派に由来するものなので、貴族が「良い顔」に描かれることは止むを得ない。それでも本図の登場人物たちがいずれも上品な印象を与えるのは、どの階層の人であっても小さく赤いおちょぼ口に描かれることによるのであろう。