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コラム8 女嫌いの『徒然草』挿絵

【男ばかりの場面ばかり…】
 コラム2で述べたように、明星大学本『徒然草』の挿絵の構図は、他の多くの『徒然草』挿絵と同様、注釈書『なぐさみ草』の指図に基づいていた。ならばどの本の挿絵も似たようなものかというと、そうではない。『徒然草』243段に対して158図がある『なぐさみ草』から、どの場面の絵を引用するかという選択の違いが出てくる。

 『徒然草』の内容は、隠遁の随筆から、宮仕え時代の回顧、執筆当時の日常的な事件、中国や日本の故事に対する考察、妻帯への嫌悪感や理想的な恋の場面まで、実に多彩である。どのような段の挿絵を選び出すかで、その本の印象は全く変わってしまう。

 明星大学本は、どうも色気がない気がするので、あらためて見ると、女性がほとんど描かれていない。男女ともに描かれた構図から女性だけを排除したのではなく、もともと男性しか存在しない図様の段が選ばれている。一見、華やかな五十四段の中心人物も、稚児なのである。なかなか優美な宮廷画家の土佐派的な表現なので、王朝風の女性など描けないはずはないと思うのだが。

 唯一、女性が登場するのが、老衰した小野小町についての第百七十三段である。短く硬い考証であり絵にするには陰惨なので、さほど選ばれることのないこの段を、わざわざ十三図という数少ない挿絵に入れたのは、絵師か注文主かが女性に恨みでもあったのだろうか。

 この明星本には後半に4か所ほど、あとで挿絵を貼り付けるつもりだったと思われる空白のページがある。その最後となる第二百四十段は、恋と結婚についてのほろ苦い随想である。仮にここに絵があったとしたらさて、どのようなものであっただろうか。